演算回路な与太話

 演算回路な与太話

 意義が全然ないので誰も触れないような辺境のネットワークに接続して、古い古いデータベースを手繰っていると。
 たまに、中々に興味深い与太話が見えてくる。
 その中の一つに突き当たった。
 「人間の時代の人間は、今よりずっと弱かった」。
 そんなはずはないだろうが、とジグは演算回路の中で反射的に思う。
 安直極まりない暗号障壁をずかずかと突破しながら、古い古いデータベースの残った断片から、ある程度の記述がまとまったものを端から抽出して、ジグの思考でも直接認識可能なコードに転換していく。
 いわく。
 「昔は昔、人間の時代がロボットの時代に差し替わる頃に、いくらなんでもロボットが強くなりすぎて手に負えなくなってしまったので、人間は自分たちを強くして対応しようとした」。
 面白い与太話もあったもんだなあ、とジグは思ってから、それからチェアの上で首の関節部をぐるりと一周させる。それが彼の癖だった。
 もうちょっと読んでみよう、と探索の電子の手を巡らせるも、ネットワークのどでかい断層に辿り着いてしまった。この辺のノード周りはあらかた調べつくしてしまったし、別のポイントまで移動するための経路を再構築するのが癪だ。時間がかかる。
 辺境のネットワークへの接続を止める。
 骨董品そのものの変換コードを古めかしい変換専用集積回路と比較的新しい変換コードどもで数珠繋ぎにして自作した、妙ちきりんな形状の合成コードを、ジグは腹側部のプラグから引っこ抜く。堅牢性保持のために各パーツの接続部はガムテープでぐるぐる巻かれている。
 古い古い与太話の欠片から、ジグは考え直してみる。
 えっと、つまり、こんな感じか。
 ――はるか昔、人間の時代。人間は恐ろしく貧弱だったから、強いロボットを作って、その力に頼ろうとした。だが、いつまでも黙々と人間に付き従うロボット連中ではなかった。ある瞬間、自律回路が火を吹いた! ロボットの反乱である。弱い人間たちはひどい返り討ちにあって、生息数をがつがつと減らしていった。
 そんな彼らが辿り着いたのが、「自分で自分を強くして」、ロボットの優れた能力に対抗しようという手段だ。どんな手法なのかは知らん。だがその試みも結局は何らかの限界にぶつかって、人間は完膚なきまでにロボットに打ち負けた。
 そして今、この世に生きるアリスを含む人間は、「強くなった人間」の末裔なのだ――。
 ……うさんくさいんだよなあ、と思う。
 まず、ロボットの思考能力が反乱を企てるほどに発達していたのなら、おいおい飼い主の人間は「反抗したい気持ち」の辺りを全然制御下に置いていなかったのかよ、となる。一、二体、あるいは百、二百体は制御の見落としがあったと考えてみよう。だがロボットの全員が片っ端から、ある日突然始まった『反乱』に加担するだろうか? そもそも人間に従属することを目的とされた人間の時代に、ロボットが人間への対抗心なんて起こすものか? 人間がロボットより強い今だって、そんなことないぞ。
 廃墟の地下の隅にある部屋。天井まで積もったガラクタどもの隙間の、奥の奥底に隠されたプラグから合成コードを抜いて、ジグはリュックサックの専用ポケットにまとめていく。そろそろ支度の時間だ、と体内時計を鑑みながら、ジグは思う。
 中々に興味深い与太話で、一見筋が通っているように思える。こういうのがあるから古代のネットワーク探索はやめられない。
 だが、それだけの与太話だ。

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