眠り姫

麗しの眠り姫は、擬似ガラスのカプセルに囚われて

紅い生体補整スープの中に背を丸め、睫毛の際立つ眼を優しげに瞑っている

面持ちは安らかなる夢想のさなか、しかしほんの少しだけ退屈そうだ

 

忘れ去られた暗闇の廃墟に、維持カプセルは黙々とその役割を続け

だが彼女を液中に繋ぎ留めた魔法使いの影は、既にこの世にない

 

施設外壁に至るまでの防護システムの総数は、姫を守護する衛兵の数

血管と神経に繋がれた細い細い糸の本数は、哀れな王の愛と憂いの数

ふと、水晶より放たれ彼女を取り囲むは、色とりどりのレーザーライト

六十六分毎の精査が、人知れず始まり、人知れず終わってゆく

 

暗闇が戻る

姫は、やはり眠り続けている

しかし、わたしたちだけは知っている

彼女はまどろみの中で、三年に一度ほどの頻度で、小さな寝返りをうつのだ

 

ああ、今、

生と死の紅い培養液の中で、眠り姫の指先が、ふと曲線を描くように、躍った

コメントを残す